特別対談|トヨタ×シーイーシー

MaaSアプリ
「my route(マイルート)
開発の歩みと、これから描く未来 
[前編]

TOYOTA×CEC

モビリティカンパニーへの変革を目指すトヨタが提供する、マルチモーダルモビリティサービス「my route(マイルート)」。その開発には、シーイーシーが関わっています。トヨタグループの目指すモビリティカンパニーへの変革と社会貢献に、お客様の事業に沿った提案型開発で支援するシーイーシー。今回はこの画期的なサービスの誕生から、東京・福岡での実証を経て本格サービスインまでの歩み、そしてこれから描く未来を、関係者が当時の開発秘話とともに語り合います。

前編の今回は、サービス誕生から初期開発、東京でのテスト実施までの歩みをご紹介。
後編では、福岡での実証実験で得られた成果と、本格サービスインまでの経緯、そしてこれから描く未来について、ご紹介します。

左から

間嶋 宏
トヨタファイナンシャルサービス株式会社 イノベーション本部
モビリティサービスグループ my routeプロジェクトリーダー
兼 トヨタ自動車株式会社 新事業企画部 未来プロジェクトグループ 主幹
蔡 晟尉
トヨタファイナンシャルサービス株式会社 イノベーション本部
モビリティサービスグループ 主幹
兼 トヨタ自動車株式会社 コネクティッドカンパニー MaaS事業部 Autono-MaaS開発室
コネクティッド先行開発部 Info Tech シニア・リサーチャー/主幹
辻 理恵
株式会社シーイーシー デジタルインダストリー事業本部
コネクティッドサービス事業部 コネクティッド第一サービス部 グループマネジャー

my route(マイルート)とは?

my route

マルチモーダルモビリティサービス
「my route」 https://www.myroute.fun/

100年に一度と言われる大変革の時代。トヨタはモビリティカンパニーへの変革を目指し、さまざまなMaaS*サービスの提供に取り組んでいます。その一つである「my route(マイルート)」は、「もっと移動したくなる環境づくりを通じて、すべての人の移動の自由と、ずっと賑わう街づくりに貢献したい」という想いが込められた、マルチモーダルモビリティサービスです。人が「移動したい」ときに必要となる「あらゆる移動手段の検索」と「予約・決済」サービスの提供で、「よりシームレスな移動」を実現。さらには地域のイベントスポット情報の提供などを通じて、移動したいきっかけを作り、街の活性化への貢献も目指しています。2018年よりトヨタ自動車株式会社で実証実験に取り組み、現在はトヨタファイナンシャルサービス株式会社が事業展開を担っています。

*MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人ひとりのトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済などを一括で行うサービスであり、観光や医療などの目的地における交通以外のサービスなどとの連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです。(国土交通省Webページより)

画期的なサービス発案からデモ開発への歩みと、予想外の反響

― 「my route(マイルート)」の構想は、どのように生まれたのでしょう?

間嶋氏「my routeの前身にあたるプロジェクトの構想は、2014年頃からトヨタ自動車の未来プロジェクト室(当時。以下、未来室)という部署で検討が始まっていました。私が加入したのは2018年からですが、「“もっと移動したくなる環境づくり”を通じて、”すべての人の移動の自由”と”ずっと賑わう街づくり”に貢献したい」というプロジェクトのビジョンは、前任の方たちから大切に受け継がれています。自動車の移動だけに着目するのではなく、さまざまな移動手段の中の一つとして自動車を位置づけ、最適な移動手段を提供したいという考えが、根本にありました。」

蔡氏「2016年頃、私はトヨタIT開発センターに所属していて、(未来プロジェクト室とは別に)研究開発の新たなテーマを探していました。その中でモビリティも旅行などのように、移動手段ごとに個別に予約するのではなく、1つで完結できるプラットフォームがあれば便利じゃないか、と考えていました。毎年1回、株主やグループ各社に研究成果を発表する機会がありまして、まずはそこをターゲットに、公共交通とタクシー、トヨタのHa:mo(ハーモ:超小型自動車のシェアリングサービス)の予約から決済までが完結できるコンセプト・デモを作ろうと考えました。それで2017年、社内の他のプロジェクトでお付き合いのあったシーイーシーに声をかけ、デモシステム開発を依頼しました。」

― その時点で両社は、どういうお付き合いだったのですか?

「トヨタグループとはもともと古くからのお付き合いがありましたが、私は2009年頃からトヨタの先行開発部門で、要素技術の研究などをお手伝いさせていただいていました。そこには蔡さんが所属されているトヨタIT開発センターの方々も出向で来られていて一緒にお仕事する機会があり、蔡さんからお声がけいただき今回のプロジェクトに参画しました。シーイーシーの得意分野は、お客様が考えられていることを、可能な限り素早くシステム化すること。この時のデモも、それこそ『紙芝居』的な、フワっとしたものだったら実現に至らなかったのではないかと思います。蔡さんたちのアイデアと、当社の強みがうまく融合できたと思います。」

― デモ開発はどのくらいの期間で、順調に進んだのでしょうか?

蔡氏「開発期間は約半年。その間はシーイーシーとほぼ毎週打ち合わせをして、あれこれ議論しながらアイデアを形にしていきました。」

シーイーシーは『お客様に言われたものを作る』とか『言われたことだけやる』のではなく、常に『こうした方がよいのではないか?』と提案して、議論し合い、お客様と一緒にアイデアをシステムとして具現化していく基本姿勢を心がけています。」

蔡氏「それはすごく感じました。我々が気づかない、見落としている点を自ら考えて動いていただけるので、本当に助かりました。」

「蔡さんをはじめ、トヨタの皆様もそれを受け入れてくださる雰囲気でしたので、早期に良い関係性が築けたと感謝しています。」

― デモをお披露目された反響はいかがでしたか?

蔡氏「その時点では、PC上のみで動作するスタンドアローンシステムでのコンセプト・デモをお披露目しました。その発表会に未来室の方々が来られていて、『ちょうど私たちもビジネス目線で人々の移動総量を増やし、街を活性化させるアイデアがある。』とおっしゃっていただいて、意気投合したのです。」

間嶋氏トヨタが掲げるモビリティカンパニーになるというビジョンの実現に向け、未来室がビジネスサイドで考えていたものと、蔡さんが技術開発目線で持っていたものが合致したのだと思います。」

蔡氏「デモの後、その場で1時間以上話し込むくらい盛り上がりました。その後、2018年からは未来室の方で正式に予算が付きまして、そこからは未来室主導のプロジェクトに、私は開発のリーダーとして参画することになりました。」

東京でのテスト実施に向け、約3カ月でマルチOSアプリを開発

次なるステップとして、2018年3月から東京でクローズドなテストが行われることとなりました。

― 東京でのテストは、どういったものだったのでしょうか?

蔡氏「東京でのテストは、約200名の利用者を対象に行いました。どういう属性のユーザーをどのくらい人数集めれば全体像が見えるのか、性別や年齢層を満遍なく把握するにはそのくらいの規模が最適だろうと。ルートを絞り実際に利用していただいて、ユーザーインタビューで声を集め、機能を充実させることが目的です。若干ですがモニターの一般公募も行い、その方々はWebアンケートでデータを集計しました。」

「デモ時点ではPC上で動くスタンドアローンシステムで、それをWi-Fiで飛ばしてスマホでWeb画面として見る仕組みでした。それをわずか3カ月間でアプリ化することになったので、大変でした。」

蔡氏しかも、AndroidとiOSのマルチOSですからね。まだテスト段階だからどちらか片方で、との声もありましたが、作るからにはきちんとしたものを作りましょうという、未来室の強い意向でした。」

「Androidに比べ、iOSはどうしても開発に時間がかかります。でもなんとか乗り切ろうと。急遽、スマホ開発チームを増強して、機能制限を付けながら開発しました。」

― テストにあたり、本格的な開発をそのままシーイーシーに依頼された経緯は?

「当社は未来室とのお付き合いは初めてでした。蔡さんが推薦してくださったと伺っています。」

蔡氏「シーイーシーにお手伝いいただいたデモがある程度完成しており、技術部分をまた新規でやるともったいないですし、時間もかかります。これまでの関係性も財産と捉えて、ぜひシーイーシーを使い続けたい、とお伝えして了承いただきました。そしてここから、UI/UXを専門とするデザイン会社にもプロジェクトに加わっていただきました。」

― UI/UXとシステム開発の兼ね合いはいかがでしたか?

「デザイナーサイドはデザイン視点でユーザーの使いやすさ、見映えにも非常にこだわられます。画面の動作もヌルっとしてくれとか。普通に開発したら標準部品では対応できず、カスタマイズ工数がかさんでしまいます。また、AndroidとiOSでもなるべく挙動や見た目を揃えたい。協議しながら、落としどころを見つけていきました。」

― 「my route(マイルート)」というネーミングも、この時期に決まったのでしょうか?

蔡氏「はい。私は『モビリティプランナー』という名称を考えていたのですが、やはり技術者なので、どうしても機能推しになってしまいます(笑)。新しいサービスだし正解がある訳ではないのですが、とにかく利用者目線でわかりやすいもの、親しみやすいものを、という想いが込められています。

間嶋氏「当時の資料を見返すと30個程度の案が並んでいましたが、その中でもユーザーフレンドリーで分かりやすいことを最優先とされていました。ネーミングだけでなく、UIデザイン面でもユーザーフレンドリーでありたいと思っています。」

「空想」のデモと「現実」のギャップを、いかにして埋めるか?

― アプリ開発にあたり、特に苦労された点は何だったのでしょうか?

間嶋氏「私はちょうどこの時期にプロジェクトに参画したのですが、このシステムの特徴として連携先が多いことと、加えて決済まで踏み込むため、開発の複雑度や信頼性のハードルが非常に高いということですね。相手方のシステムが、我々の意図通りに動くとは限りませんし、加えて業務フローやオペレーションの制約でできないこともあります。会社も変われば仕組みも変わるのが難しさですね。」

蔡氏「言ってみればデモシステムは空想の世界。それを現実世界で動かすと、想定通りに行かないこと、足りないパラメーターが山ほどあります。連携候補のシステムがきっとこのような振る舞いをするだろうなどと予想して作ってはいましたが、現実は違う。ですので先方に訪問して、システム仕様や業務フローのヒアリングから始めました。」

― 現在ならともかく、当時はまだAPI連携も一般的ではなかったですよね?

蔡氏「幸い、テストに協力いただいた大手タクシー会社が先進的で、当時から他のシステムからタクシーを呼ぶことを想定して、ある程度APIの構想を持たれていました。連携にあたっては互いの要求を出し合い、仕様変更を重ねました。」

― 特に決済機能との連携が大変だった?

蔡氏「当時、タクシーの決済は、土日を挟むと最長3日かかることもあると。アプリを利用して金額がすぐにわからないのは困るのですが、どうしてもタイムラグが発生します。『その間にクレジットカードの限度額を超える』といったケースも発生し得ますので、そういったリスクも考慮しないといけません。こうしたチューニングが、開発段階で山ほどありました。」

「各社でAPIがあったりなかったり、仕様も異なります。同じ予約画面で操作したいが、受け手が違うとそれらをすべてシステム側で吸収することになります。例えばこのタクシー会社なら決済まで可能、この会社は車内で現金払いのみとか、そういう判断が入るとシステムが肥大化します。そこをいかに標準化しながら、かつスピーディーに開発するかには、苦労しました。」

― 地図やルート検索は、どのように実現しているのですか?

蔡氏「複数社の検索エンジンを利用しています。さらに当時は電車、バス、車など単独のルート検索のみで、マルチモーダル検索は存在しませんでしたので、その部分はアプリ側で組み合わせる必要がありました。」

「当社は先行研究の支援もしており、研究も一緒に行いますが、その道のプロがやった方が速い場合、開発は棲み分けして対応します。実証実験では、ルート検索エンジン各社の検索結果を組み合わせて、マルチモーダル検索の結果となるようにシステム側でさまざまなチューンナップを施し、実現しました。しかし、アプリ側でさまざまな組み合わせを実行すると時間がかかってしまいます。そのため、最終的にはアプリ側で対応したマルチモーダルの検索結果をルート検索エンジン各社へフィードバックし、ルート検索エンジン各社がマルチモーダル検索結果を出せるようにすることで、スピーディーな表示を実現しました。」

my routeプロジェクトで提供したスマートモビリティサービス

企画構想支援サービス
  • 企画から参画し開発技術のみならずアイデア創出も支援
構築支援サービス
  • ・製品化の際も高品質で性能やセキュリティを加味した提案を実施
  • ・地域展開などの機能追加時のリリースも支援
運用サポートサービス
  • ・TFS様の運用体制が立ち上がるまで一部運用も支援
  • ・実証実験の実施についても支援

企画構想
支援サービス

  • アドバイザリー

    長年培ったモビリティサービス分野の知見をもとに、サービス企画構想に対するアドバイザリーサービスをご提供します。

  • スターターパック

    サービス試行・実証実験向けに最小限のシステムリソースを活用することにより、短期間&低費用でのサービス試行を実現します。

構築支援サービス

  • システム企画・開発・運用

    モビリティサービスの要件検討から開発・テストまで、一連のアプリケーション開発業務をご支援します。

  • 構築支援サービス

    サービスの運用基板となるクラウド上に、お客様サービスに最適なプラットフォームを構築します(AWS、Azure上での構築に対応可)

  • 外部サービス連携支援

    お客様サービスの利便性向上に向け、外部とのシステム連携(決済システム/地図システム/SNS/周辺サービス情報など)を実現します。

運用サポート
サービス

  • インシデント管理

    電話、メール、オンサイトにて問題解決支援を実施します。

  • スポット支援

    お客様環境にて、問題確認や対応方法の技術的アドバイスを実施します。

  • あんしん支援

    お客様向け専用体制での業務支援を提供します。

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